
結論「緑茶のカテキンが、一部の薬の吸収を最大99%も妨げる可能性があります。とくに心臓・高血圧の薬を服用中の方は注意が必要です。」
この記事はこんな方におすすめ
✅健康のために毎日緑茶を飲んでいる方
✅薬を飲んでいる家族の食事や飲み物に気をつけたい方
✅サプリや健康食品と薬の相性に関心がある方
✅「薬が効きにくい」と感じたことがある方
時間のない方・結論だけサクッと知りたい方へ
🔴疑問:緑茶と一緒に薬を飲んだら、効き目が弱くなるって本当?
🟡結果:薬の血中濃度が最大で99%減少した薬も!
🟢教訓:特に高血圧・心疾患の薬を飲んでいる人は、水で飲むのが安心です。
🔵対象:海外の健康な成人対象ですが、緑茶をよく飲む日本人にも深く関係があります。

はじめに
皆さん、こんにちは!
皆さんは薬を飲むときに一緒にお茶を飲むことってありませんか?
私は普段から、薬を飲むときに、健康のためと思って緑茶を一緒に飲んでいました。でも…それって実は逆効果だったかも?と知って驚きました。
本日ご紹介するのは、「緑茶と薬の飲み合わせが、薬の効き方にどんな影響を与えるのか」を調べた研究です。
この論文は、オーストラリアの医学専門誌『Clinical Pharmacology & Therapeutics』に掲載された信頼性の高い内容で、特に薬を飲んでいる方には知っておいてほしい重要なテーマです。
今回は、この論文をもとに「緑茶と薬の意外な関係」について、わかりやすく解説していきます。
自己紹介
こんにちは! 某県の大規模病院で外科医として約20年の経験を持つ「医学論文ハンター・Dr.礼次郎」です。
海外の権威ある医学雑誌に掲載された論文を一編ずつ読み解いた、
生の「一次情報」をもとに、医学に詳しくない方にもわかりやすく解説しています。
日々、皆さんに信頼できる医療情報をお届けします!

今回読んだ論文
“Green Tea Catechins as Perpetrators of Drug Pharmacokinetic Interactions”
(緑茶カテキンによる薬物の薬物動態的相互作用)
Clin Pharmacol Ther. 2025 Jul;118(1):45-61.
PMID: 39748104 DOI: 10.1002/cpt.3547
掲載雑誌:Clinical Pharmacology & Therapeutics(臨床薬理学と治療学)【アメリカ】 2025年1月より
研究の目的
この研究の目的は、「緑茶に含まれるカテキンという成分が、薬の吸収や効き方にどんな影響を与えるのか?」を明らかにすることです。
緑茶、特に「EGCG(エピガロカテキンガレート)」と呼ばれるカテキンは、抗酸化作用など健康によい成分として注目されており、日常的に飲んでいる人も多いですよね。最近では、サプリメントなどで高濃度に摂取する人も増えています。
ところが近年の研究で、EGCGが「薬の吸収に関わる運び屋(=トランスポーター)」の働きを邪魔してしまう可能性が指摘されてきました。つまり、体にいいはずの緑茶が、知らないうちに薬の効果を弱めているかもしれない──この疑問こそが、この研究の出発点だったのです。
この研究では、実際にどんな薬に影響があるのか、どれくらい吸収が妨げられるのかを明らかにするために、複数の臨床試験の結果を集めて検証が行われました。

研究の対象者と背景
この研究は、著者自身が新たに実施した実験ではなく、過去に発表された17件の臨床試験を系統的にレビューしたものです。
これらの試験の多くは、健康な成人男女を対象としたクロスオーバー型の介入研究で、被験者が「水と一緒に薬を飲んだ場合」と「緑茶と一緒に飲んだ場合」の両方を体験する形式で行われました。
特に多くのデータはオーストラリア、カナダ、日本などの英語圏の国々で収集されており、対象者はさまざまな年齢層の健康なボランティアでした。

調査対象となったのは15種類の薬剤で、日本国内でも処方されているものが多く、高血圧の薬、コレステロールを下げる薬、心臓の薬、アレルギー薬、骨粗鬆症治療薬などが含まれています(詳細は次項の一覧表をご覧ください)。
したがって、これは海外の研究をもとにしたレビューではありますが、日本人の私たちにとっても無関係ではありません。
特に、緑茶を日常的に飲む文化を持つ日本では、「健康によいと思っていた緑茶が、実は薬の効果を弱めてしまっているかもしれない」というリスクについて、一度立ち止まって考えてみる必要があるのではないでしょうか。
研究の手法と分析の概要
この研究は、緑茶に含まれる成分「カテキン(特にEGCG)」が、薬の体内での吸収にどのような影響を及ぼすかを調べた系統的レビュー研究です。
具体的には、過去に発表された17件の臨床試験データをもとに、薬の吸収量(AUC:血中濃度の指標)が緑茶によってどれだけ変化するかを総合的に評価しました。
対象となった17件の試験の多くは、健康な成人ボランティアを用いたクロスオーバー型の介入試験で構成されています。
つまり、同じ被験者が「水と一緒に薬を服用した場合」と「緑茶と一緒に服用した場合」の両方の条件を体験し、その違いを比較する方法が用いられました。
このような研究デザインは、条件間の違い(緑茶の影響)を明確に判断できるという利点があります。

研究対象となった薬剤と、日本での使用状況まとめ
この研究で分析された薬は、全部で15種類。その多くは日本国内でも一般的に処方されているものばかりです。
以下の一覧をご覧いただくと、「あっ、これ自分が飲んでるかも」と思う薬があるかもしれません。
結果の先出しになりますが、結果ごとに色分けしています。
とくに影響が大きかった薬 影響がほとんどなかった薬 影響が不明だった薬
一般名(薬剤名) | 用途・対象疾患 | 薬剤分類 | 日本での代表的商品名 |
アトルバスタチン | 高コレステロール・脂質異常症 | スタチン系(脂質低下薬) | アトルバスタチン錠「サワイ」など |
ロスバスタチン | 高コレステロール・心血管予防 | スタチン系(脂質低下薬) | ロスバスタチン錠(多数) |
フルバスタチン | 高コレステロール | スタチン系(脂質低下薬) | フルバスタチン錠 |
シンバスタチン | 高コレステロール | スタチン系(脂質低下薬) | シンバスタチン錠 |
セリプロロール | 高血圧・狭心症 | β遮断薬(降圧薬) | セレクトール錠、セリプロロール錠「NIG」 |
ナドロール | 高血圧・不整脈・片頭痛予防 | β遮断薬(降圧薬) | ナドロール錠 |
リシノプリル | 高血圧・心不全 | ACE阻害薬(降圧薬) | リシノプリル錠 |
ジゴキシン | 心不全・不整脈 | 強心薬 | ジゴキシン錠 |
ニンテダニブ | 肺線維症・非小細胞肺がん | 抗線維化薬・抗がん薬 | インタビュラン錠 |
ラロキシフェン | 骨粗鬆症・更年期障害 | SERM(ホルモン調整薬) | エビスタ錠 |
フェキソフェナジン | アレルギー性鼻炎・蕁麻疹 | 抗ヒスタミン薬(第2世代) | アレグラ錠 |
葉酸(フォリック酸) | 妊娠時の栄養補助・貧血予防 | ビタミン剤・サプリメント | フォリアミン、メチコバールなど |
シルデナフィル | 勃起不全(ED)・肺高血圧症 | PDE5阻害薬 | バイアグラ錠 |
ミダゾラム | 鎮静・麻酔・けいれん抑制 | ベンゾジアゼピン系薬剤 | ミダール錠、ドルミカム注 |
プソイドエフェドリン | 鼻づまり・花粉症症状の緩和 | 血管収縮薬(感冒薬成分) | 新サイナスEOD、ナイシトールなど |
調査方法と評価指標
分析の中心となったのは、AUC(Area Under the Curve)と呼ばれる指標です。これは薬を飲んだ後、どれだけの量が血液中に入っていくかを示す数値で、薬の効果の強さや持続時間に直結する重要なデータです。
すべての臨床試験で、「水で服用した場合のAUC」と「緑茶で服用した場合のAUC」が比較されており、その差をもとに緑茶の影響を評価しました。
【補足:各種用語】
・AUC(Area Under the Curve):服用後に血液中に現れる薬の濃度を時間ごとにプロットしたグラフの「面積」。高いほど薬が体内に多く吸収されたことを意味します。
・介入研究:あらかじめ条件を変えて(例:水 vs 緑茶)その影響を比較する実験スタイルで、因果関係が見えやすい特徴があります。
研究結果:「緑茶が薬の効き方を大きく左右する」ことが明らかに!
今回の分析から、緑茶に含まれるカテキン(EGCGなど)が薬の吸収量(AUC)を大きく変化させることが明らかになりました。
とくに影響が大きかった薬
薬剤名(一般名) | AUC変化率(緑茶 vs 水) | 吸収への影響 |
セリプロロール | −85% | 劇的に低下(ほとんど吸収されない) |
アトルバスタチン | −98% | ほぼ吸収されなくなる |
フルバスタチン | −91% | 極めて強く阻害される |
シンバスタチン | −85% | 吸収量が著しく減少 |
ラロキシフェン | −66% | 有効成分の取り込みが低下 |
ナドロール | −85% | 効果がほとんど失われる |
これらは、緑茶が薬の吸収に関与するたんぱく質(OATP)を強く阻害するため、体内に入る量が大幅に減少したと考えられます。
影響がほとんどなかった薬も
一方で、緑茶の影響をほとんど受けなかった薬(AUC変化 ±10%以内)も報告されています
・フェキソフェナジン(アレルギー薬)
・葉酸(ビタミン剤)
・ジゴキシン(強心薬)
・リシノプリル(高血圧薬)
これらは吸収経路が異なり、緑茶との相互作用が生じにくいタイプとされています。
その他の5種類の薬は?
残りの5種類は、影響が中等度であったり、データが一部不十分だったりしました。以下に簡単にまとめます:
薬剤名(一般名) | 傾向・コメント |
ロスバスタチン | わずかなAUC低下あり。ただし変化は限定的。 |
ニンテダニブ | 一部試験で吸収量低下の傾向が見られたが、有意ではない。 |
シルデナフィル | 軽度の影響が報告されたが、臨床的には大きな問題なし。 |
ミダゾラム | 緑茶の影響は少ないが、少数の試験で軽微な変動が見られた。 |
プソイドエフェドリン | 影響はほぼ認められなかった。 |
これらの薬は、明確な相互作用は確認されなかったか、影響が軽微であるとされたグループです。
研究の結論
このレビュー研究では、緑茶に含まれるカテキン類(特にEGCG)が、一部の薬の体内への吸収を大きく妨げることが臨床的に確認されました。
具体的には、15種類のうち6種類の薬でAUC(血中濃度指標)の著しい減少が見られ、4種類は影響なし、5種類は軽度あるいは不明確な影響という結果でした。
したがって、緑茶が健康に良いとされる一方で、薬との併用には注意が必要であるという現実が明らかになったと言えるでしょう。
【筆者の考察】日本人のわれわれがこの論文から学び活かせる教訓や注意点
この研究結果から、日本人の私たちが日常生活で意識しておきたいポイントは以下の3点です。
✅緑茶は「体にいいから大丈夫」とは限らない
⇒健康食品や自然由来の成分でも、薬と組み合わさると逆効果になることがあります。
✅特に高血圧・コレステロール・心疾患の薬を服用している人は要注意
⇒これらの薬の多くが、緑茶によって吸収量が大幅に減少していました。
✅医師や薬剤師に相談することが大切
⇒「緑茶って一緒に飲んでも大丈夫ですか?」という一言が、思わぬトラブルを防ぐかもしれません。
また、日本人は緑茶の消費量が世界でもトップクラスであり、しかも食事中や薬の服用時にも緑茶を飲む習慣があるため、この研究の知見は特に重要です。

まとめ
私たちは「自然なもの=安全」と思いがちですが、今回の研究はその思い込みに警鐘を鳴らすものでした。
緑茶は確かに体にいい飲み物ですが、「薬と一緒に飲むとき」には少しだけ気をつけてほしい、そんな内容です。
特に命に関わるような薬を飲んでいる方は、服薬時はなるべく水で飲むことを心がけるのが安心です。
薬と食事や飲み物の相互作用は意外と多く、「食べ方・飲み方」で薬の効果がガラッと変わることもあります。
普段のちょっとした習慣が、大きな差になるかもしれません。

締めのひとこと
お薬は、水でどうぞ。

以上、最後まで読んでいただきありがとうございました!
もし本記事が参考になったら、他の記事もぜひのぞいてみてください。
これからも皆さまの知的好奇心を満足させられる情報をお届けできるよう努力していきます。
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