油の選び方で寿命が変わる?26年の追跡研究でわかった“良い油・悪い油”の科学【医学論文まとめ】

健康に良い油と悪い油を比較するイラスト。オリーブオイルや魚と、マーガリンや加工肉が左右に分かれて描かれている。

結論「植物由来の油(オリーブオイルや魚の油)を増やし、マーガリンや肉の油を減らすことで、死亡リスクを大きく下げられる可能性がある──これが26年間の大規模研究から導かれた結論です。」

この記事はこんな方におすすめ


✅サラダ油やバター、オリーブオイルなど「油の種類」に悩んでいる方
✅高血圧やコレステロールを気にしている中高年の方
✅健康寿命を延ばしたいと思っている方
✅医療・栄養指導に従事している医師・管理栄養士の方


はじめに

皆さん、こんにちは!

突然ですが、皆さんは「サラダ油、オリーブオイル、マーガリン…結局どれが体にいいの?」と迷ったこと、ありませんか?

私の実家では子供のころから「バターは動物性だから体に悪い!マーガリンは植物性だから体に良い!」と教えられ、毎朝パンにたっぷり塗っていたのですが、大人になった最近、この論文を読んで“マーガリンにはトランス脂肪酸が多く含まれていて心臓にも悪い”と知って、冷や汗をかきました。

本日ご紹介するのは、油の“種類の違い”が、寿命や病気のリスクにどれほど影響するかを26年間追跡したアメリカの大規模研究です。

今回はこの論文をもとに、「油の選び方で健康や寿命はどう変わるのか?」をわかりやすく解説していきます。

自己紹介

こんにちは! 某県の大規模病院で外科医として約20年の経験を持つ「医学論文ハンター・Dr.礼次郎」です。

海外の権威ある医学雑誌に掲載された論文を一編ずつ読み解いた

生の「一次情報」をもとに、医学に詳しくない方にもわかりやすく解説しています。

日々、皆さんに信頼できる医療情報をお届けします!

信頼できる医学情報を発信する外科医・Dr.礼次郎が指を指すイラスト

今回読んだ論文

“”Changes in fatty acid intake and subsequent risk of all-cause and cause-specific mortality in males and females””

(男女における脂肪酸摂取の変化と、全死亡および原因別死亡リスクの関連:前向きコホート研究)

Am J Clin Nutr. 2025 Jan;121(1):141-150. doi: 10.1016/j.ajcnut.2024.11.012. Epub 2024 Nov 16.

PMID: 39551355 DOI: 10.1016/j.ajcnut.2024.11.012

掲載雑誌:The American Journal of Clinical Nutrition(アメリカ臨床栄養学誌) 【アメリカ】 2024年11月より

研究の対象者と背景

この研究に参加したのは、アメリカの医療従事者65,179人(看護師41,639人、医師・薬剤師など23,540人)です。

研究開始時点で全員、がん・心臓病・糖尿病などの重大な病歴がなく、比較的健康で知識も豊富な中高年層でした。
こうした「健康意識の高い人たち」を26年も追跡することで、どの油をどれだけ摂るかが、健康寿命にどう影響するかを明らかにしています。

ただし、この結果が日本人にそのまま当てはまるかについては注意が必要です。
アメリカ人は日本人よりも油の摂取量が全体的に多く、遺伝的な代謝の違いもあるため、参考にする際はその点を踏まえる必要があります。

研究の手法と分析の概要

どんな方法で調べたのか?

研究では、対象者に「4年ごとに食事内容を詳しく記録するアンケート(SFFQ)」を実施し、どの油をどのくらい摂っているかを調べました。

たとえば:


✅料理にどんな油を使っているか?
✅肉や魚、揚げ物の頻度は?
✅パンにはバター?それともマーガリン?


など、日常の食習慣を細かく記録し、食事から摂取される油の種類を数値化します。
その後、26年にわたって誰が、どんな病気で亡くなったのかを記録し、油の摂取と死亡リスクの関係を統計的に分析しました。

また、「飽和脂肪酸(SFA)を不飽和脂肪酸(PUFAやMUFA)に置き換えたら、死亡リスクはどう変わるか?」というシミュレーションも行われました。

【補足】PUFA、MUFA、SFA、TFAってなに?

脂肪にはいろいろな種類がありますが、それぞれの働きや体への影響はまったく違います。

ここでは、論文で登場する4つの脂肪酸について、簡単に整理しておきましょう。

研究結果:良い油・悪い油が明らかに!

この研究の結果として以下のようなことがわかりました。


✅PUFAを5%多く摂ると、全死亡リスクが17%低下(HR: 0.83)
✅MUFA(植物性)を5%多く摂ると、死亡リスクが9%低下(HR: 0.91)
✅SFA(飽和脂肪酸)をPUFAに置き換えると、死亡リスクが19%低下
✅TFA(トランス脂肪酸)を1%増やすと、死亡リスクが10%上昇
✅動物性MUFAは逆に死亡リスクを上昇させる傾向あり


つまり、「油の種類を変えるだけで、長生きできる可能性がある」ことが示されたのです。

次項でその肝となる図表を解説いたしますが、上記がこの論文のもっとも重要な結果ですので、結論だけ知りたい方は【筆者の考察】へ進んでいただいても大丈夫です。

Figure 1 「どんな油をどれだけとると、将来どれくらい長生きできるか?」

ScienceDirect

この図では、ある油の種類を4年・8年・12年のあいだに多く摂った人が、その後どうなったのか?

つまり、「どの油をどのくらい摂ると、“死ににくくなる”もしくは“死にやすくなる”か?」を比べています。

油は全部で6種類に分かれていて、それぞれに3本の点と線が描かれています。これは:


✅青い点と線:4年での変化(短期)
✅赤い点と線:8年での変化(中期)
✅オレンジの点と線:12年での変化(長期)


6つの油の種類別に、それぞれの影響を簡単に見ていきましょう:

それぞれの油が体にどう影響したか?

では、6つの油の結果をわかりやすく見ていきましょう。

① 飽和脂肪酸:SFA(バター・肉の油など)

どれだけ食べても、明確に寿命がのびたり縮んだりする効果は見られませんでした。
→ よくも悪くも「中立」。ただし、他の油に置きかえるといいことがある

② 多価不飽和脂肪酸:PUFA(魚や植物油)

特に最初の8年くらいでたくさんとるようになった人は、死亡率がグンと下がりました!
12年後はやや効果が弱まって見えますが、それでも「長生きしやすい傾向」は続いています。
→ 魚をよく食べる、サラダに植物油をかける、ナッツをつまむ…そんな習慣がかなり効果ありそうです。

③ 一価不飽和脂肪酸:MUFA(オリーブオイル・アボカド・ナッツ)

4年ではあまり効果が見えませんでしたが、8年・12年と続けると、じわじわ良い影響が出てきます。

→ 「すぐに効果が出る」というよりは、「続けた人が強い」タイプの油。

④ トランス脂肪酸:TFA(マーガリン・加工お菓子など)

特に4〜8年でたくさんとるようになった人は、死亡率が明らかに上がっていました。
12年後になるとグラフ上ではリスクがやや落ち着いているように見えますが、これは本当に体にいいという意味ではありません。
※社会全体でトランス脂肪酸の使用が減ってきたため、「差」が見えにくくなっただけと考えられます。いまでも「摂らない方がいい脂」であることに変わりはありません。

⑤ リノール酸:PUFA(ひまわり油・大豆油などに含まれる植物油の一種)

摂り方が増えるほど、安定して長生きしやすくなる傾向が見えます。
→ 家で使う油をサラダ油からオリーブオイルやこめ油に切り替えると、効果があるかもしれません。

⑥ 魚の油:PUFA(EPA・DHA:青魚に多い)

サバ・サンマなどの魚の油を増やした人は、どの期間でも死亡リスクが下がっていました!
→ 魚を食べる習慣がある人ほど、元気に長生きしやすいということが、この図からもわかります。

この図からわかる大事なこと


✅“=悪”ではない。油の「種類」が重要!
✅魚や植物の油は体にいい。マーガリンや加工油はできるだけ避けよう。
✅効果はすぐには出なくても、いい油を“続ける”ことで大きな違いになる。


【補足】ハザード比(HR)ってなに?

この表に出てくる数字「HR」は、
「あるグループが、死亡などのイベントをどれくらい起こしやすいか(=速さの違い=リスク)」を表す指標です。

HR = 1.00 基準グループと同じリスク

HR > 1.00 「死亡が起こる速さ」が高い=「死亡を起こしやすい」(リスクが高い)

HR < 1.00 「死亡が起こる速さ」が低い=「死亡を起こしにくい」(リスクが低い)

たとえば:

HR = 1.25 → 死亡する“速さ”が25%高い=1.25倍死亡を起こしやすい(相対的にリスク↑)
HR = 0.80 → 死亡する“速さ”が20%低い=0.80倍死亡を起こしにくい(相対的にリスク↓)

※これは「実際に亡くなった人数」ではなく、「どれくらい起きやすいかのスピードの差=起きやすさ」を示します。

病気別に見えた「良い油・悪い油」の傾向とは

さらにこの研究では、さきほどの油の種類ごとにがん・心臓病・神経疾患・呼吸器疾患といった死因別のリスクも比較されました。

その結果、次のような傾向が明らかになりました:


✅PUFA・リノール酸・魚の油はほぼすべての病気で死亡リスクを下げる

✅植物性MUFAも心臓や神経疾患に良い

✅一方、動物性MUFA・トランス脂肪酸(TFA)は、全体的に死亡リスクを高める


つまり、「どんな油を摂るか」で、将来かかる病気も変わる可能性があるということです。

【筆者の考察】日本人のわれわれがこの論文から学び活かせる教訓や注意点

われわれ日本人が留意すべきことを以下に挙げてみました。


✅日本人は脂肪に弱い?
 → 日本人は欧米人に比べ、脂質代謝酵素の活性が弱いとする報告もあり、「少量でも影響が出やすい」可能性があります。

✅マーガリンやお菓子はまだ身近にある
 → 日本ではトランス脂肪酸の規制が緩く、表示義務はあっても「気づかず食べている」人も多いです。意識して避ける必要があります。

✅魚をもっと食べよう!
 → 日本は幸いにも魚文化が根づいています。サバやサンマなどの青魚を週に2〜3回食べるだけでもPUFAはしっかり摂れます。

✅「減らす」より「置き換える」
 → バターをやめるよりも、「オリーブオイルに変える」ことがポイントです。ネガティブな制限より、ポジティブな置き換えを意識しましょう。

まとめ

最後に、今回の記事で押さえておきたいポイントをまとめておきます。


✅油の種類が死亡リスクに大きく関係することが、長期の研究で明らかに

✅植物性の不飽和脂肪酸(PUFA・MUFA)は、健康・長寿のカギ

✅一方で、マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸はリスク大

✅日本人は特に「油の質」に注目し、慎重に選ぶ必要がある


締めのひとこと

「『油は敵』ではなく、『選び方しだいで味方』になります。明日からの調理油、見直してみませんか?」」


以上、最後まで読んでいただきありがとうございました!

もし本記事が参考になったら、他の記事もぜひのぞいてみてください。

これからも皆さまの知的好奇心を満足させられる情報をお届けできるよう努力していきます。

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