暴飲暴食を運動で帳尻合わせてる人へ。「走ればチャラ」は心臓には逆効果かもしれません

中強度の運動と高脂肪食のリスクを対比するイラスト:ジョギングしながらハンバーガーを持つ男性と、心臓疾患を説明されるシーン

結論「運動で帳尻合わせてる人へ。「走ればチャラ」は心臓には逆効果かもしれません」

この記事はこんな方におすすめ


✅食べすぎた翌日に「とりあえず運動」でバランスを取っている人
✅健康のために運動を始めたけど、最近なんとなく疲れやすいと感じている人
✅ダイエット中で「食事制限はつらいから運動で調整」と考えている人
✅中年以降の体型・健康管理に運動を取り入れているが、思ったより効果を実感できない人


はじめに

皆さん、こんにちは!

突然ですが、食べすぎたり飲みすぎたり、ついつい暴飲暴食してしまったとき──
みなさんは、どんな方法で“帳尻”を合わせていますか?

私は翌日、「今日は控えめにしよう」と食事量を減らしたり、「走ればチャラになるはず」とあわてて運動したりして、何とか取り戻そうとしてきました。

でも、年齢を重ねるにつれてその辻褄合わせも効かなくなり、気づけば少しずつ体重が増えてきて…。

本日ご紹介するのは、そんな“運動で取り戻す作戦”が、実は逆効果になるかもしれないという、ちょっと衝撃的な研究です。

この論文は、イギリスの科学誌『Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)』に掲載されたもので、運動の強度と食事の関係が心臓にどんな影響を与えるかを、動物実験で詳しく検証しています。

今回は、「運動しても心臓に悪いってどういうこと?」というテーマを、わかりやすく解説していきます。

自己紹介

こんにちは! 某県の大規模病院で外科医として約20年の経験を持つ「医学論文ハンター・Dr.礼次郎」です。

海外の権威ある医学雑誌に掲載された論文を一編ずつ読み解いた、

生の一次情報をもとに、医学に詳しくない方にもわかりやすく解説しています。

日々、皆さんに信頼できる医療情報をお届けします!

今回読んだ論文

“Moderate-intensity interval exercise exacerbates cardiac lipotoxicity in high-fat, high-calories diet-fed mice””

(中強度のインターバル運動は、高脂肪・高カロリー食を与えられたマウスにおける心臓の脂質毒性を悪化させる)

Nat Commun. 2025 Jan 12;16(1):613.

PMID: 39800728 DOI: 10.1038/s41467-025-55917-8

掲載雑誌:Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ) 【イギリス】 2025年1月より

研究の対象者と背景

この研究は、中国・西安にある軍医大学を中心とした研究チームが実施したもので、実験にはC57BL/6J系統というよく使われる実験用の雄マウスが用いられました。
このマウスは、肥満や糖尿病、心臓病などの研究で世界中の科学者たちが使っているモデル動物で、人間の生活習慣病を再現するのに適しているとされています。

目的は、高脂肪・高カロリーな食生活と運動を組み合わせたときに、体や心臓にどんな変化が起こるのかを詳しく調べることでした。
もちろん、マウスと人間の身体は異なるため、研究結果をそのまま私たちに当てはめることはできません。

それでも、近年の日本でもよく見かける
「脂っこい食事が多くなりがちだけど、運動してるから大丈夫!」というような生活スタイルに通じる部分があり、この研究は私たち自身の習慣を見直すきっかけにもなり得る重要な内容といえるでしょう。

研究の手法と分析の概要

今回の研究では、マウスに「60%が脂質で構成される高脂肪・高カロリー食(HFCD)」を8週間にわたり与えました。これは、脂っこい食事や甘いものが多くなりがちな現代の食生活、いわば“いわゆる暴飲暴食”に相当するような内容です。

この食事を与えながら、次の4つのグループに分けて比較しました:


1.通常食+運動なし(対照群)
2.高脂肪食+運動なし
3.高脂肪食+低強度運動
4.高脂肪食+中強度運動
5.高脂肪食+高強度運動


運動は、トレッドミル(回転式のランニングマシン)を使って、あらかじめ設定したスピードで一定時間走らせるという方法で実施されました。
特に“中強度”の運動は、人間に例えるとやや息が上がるジョギング程度と考えてよいでしょう。

研究チームは、これらのグループごとに以下のような幅広い項目を測定し、体と心臓に何が起きているかを多角的に分析しました:


体重や内臓脂肪の増減
血糖値や血中脂質(コレステロールや中性脂肪など)
心臓のポンプ機能や柔軟性(エコー検査や血圧・圧容積ループ解析)
心筋内の脂肪の蓄積量(顕微鏡や染色法による組織解析)
エネルギーを生み出す“ミトコンドリア”の機能と構造(電子顕微鏡や代謝測定機器を使用)


これにより、「運動が代謝をどう変えるのか」だけでなく、「運動によって心臓がどのように影響を受けるのか」まで掘り下げて確認されたのが、この研究の大きなポイントです。

【補足】中強度運動とは?

中強度の運動とは、マウスにとっては時速12メートル程度のスピードで一定時間走るトレッドミル運動。人間に置き換えると、「やや息が上がるけれど、まだ会話ができる」レベルのジョギングに近いものです。

これは多くの人が「健康維持のためにちょうどよい」とされる強度でもあり、だからこそこの研究結果が示す“思わぬ落とし穴”には注目が集まります。

研究結果:中強度の運動は、心臓には逆効果だった

この研究が示したのは、「高脂肪・高カロリーな食生活に運動を組み合わせると、必ずしも健康に良いとは限らない」という、これまでの常識を覆すような結果でした。

運動によって体重は減少し、血糖や脂質の値も改善。とくに中強度の運動では、代謝的な改善効果が最もはっきりと表れました。
脂っこい食事を続けながらも、「運動してるから大丈夫」と思いたくなるような理想的な成果に見えます。

しかしその裏で、心臓の中では脂肪がさらに蓄積し、ポンプ機能が低下し、エネルギーを生み出すミトコンドリアの働きまで大きく落ちていたのです。

とくに「中強度の運動」をしていたグループで、代謝は最も改善していたにもかかわらず、心臓へのダメージは最も深刻だったという結果は、見た目や血液検査の数字だけでは健康のすべては語れないことを、強く示しています。

【研究結果の要点まとめ(対照群を含む)】

観察項目通常食+
運動なし
(対照群)
高脂肪+
運動なし
高脂肪+
低強度
運動
高脂肪+
中強度
運動
高脂肪+
高強度
運動
備考
体重増加安定非常に
多い
やや
減少
明確に減少明確に
減少
運動で肥満は緩和された
血糖・脂質正常高値改善傾向最も明確に改善改善傾向中強度運動が代謝には最も効果的
心筋脂肪蓄積ほとんど見られない高レベルで蓄積高レベルで蓄積が継続さらに蓄積が進行高レベルで蓄積が継続中強度運動で蓄積が最も進行
心機能(LVEF・E/A比等)正常軽度に低下やや低下最も大きく低下軽度低下中強度群で心機能が最も悪化
ミトコンドリア機能正常劣化傾向軽度低下著しい機能低下軽度低下心筋のエネルギー代謝に問題

【補足】ミトコンドリアってなに?

ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーを生み出す“発電所”のような存在です。特に、休みなく動き続ける心臓では、その働きが生命維持に不可欠です。

今回の研究では、中強度の運動を行ったマウスでミトコンドリアの数や形、エネルギーを生み出す力が最も大きく低下していたことが確認されました。これは、「心臓の細胞そのものが、元気を出せなくなっていた」という深刻な状態です。

心臓の状態に現れた“見えない変化”

研究では、心臓が血液を送り出す力(駆出率)や、拡張時の柔らかさ(E/A比)といった機能を詳細に測定しました。これらは病院のエコー検査でも使われる指標で、心臓の働きの良し悪しを判断する重要な数値です。

その結果、中強度の運動をしていたマウスで、これらの指標が最も大きく低下しており、心臓のポンプ機能が大幅に落ちていたことが明らかになりました。外見的な改善とは裏腹に、内側では“見えないダメージ”が進んでいたのです。

研究の結論:運動は心臓に良いとは限らない

運動は体重を減らし、代謝を改善する力を持っています。実際、この研究でも中強度の運動が最もはっきりと代謝を良くしていました。

しかし一方で、その運動が高脂肪な食生活と組み合わさると、心臓には深刻な悪影響が生じる可能性があることも、同時に明らかになったのです。
中強度運動を行ったグループでは、心臓に脂肪がより多く蓄積され、ポンプ機能が著しく低下し、エネルギーを作り出す細胞機能まで落ち込んでいました。

つまり、「運動=健康」という思い込みは、食事の内容や体の状態によっては裏目に出ることがある
この研究の最大のメッセージは、まさにその点にあるのです。

【筆者の考察】日本人のわれわれがこの論文から学び活かせる教訓や注意点

日本でもコンビニ食や外食中心の「高脂肪な食生活」が当たり前になってきています。「ちょっと脂っこいものが続いたけど、ジムで汗をかいてるから大丈夫」――そう信じている人も多いのではないでしょうか?

この研究が私たちに教えてくれるのは、“食べすぎてしまったら、すぐ運動で帳消し”という考えが必ずしも安全ではないという点です。
特に心臓に疾患を抱えている方や、その予備軍の方にとっては、「どんな運動を、どの程度行うか」がとても重要な分岐点になります。

「体重が減った=健康」ではなく、「臓器がきちんと機能しているかどうか」に目を向けることが大切です。
この研究は、そうした“体の内側の変化”にもっと注意を向けるべきだと、静かに警鐘を鳴らしています。

まとめ

運動は健康に良い。これは決して間違いではありません。
でも、その運動がいつ、どんな食生活とセットになっているかによって、体の中で起きる変化はまったく異なるものになります。

とくに「中強度以上の運動」と「高脂肪食」の組み合わせは、一見代謝に良いように見えても、心臓には危険な負担を与える可能性があるということを忘れてはいけません。

これから運動を始めようと考えている方は、ぜひまず「食生活の見直し」からスタートしてみてください。
見た目や体重だけでなく、“内臓がきちんと働いているか”という視点を持つことで、本当の意味での健康が見えてくるはずです。

締めのひとこと

「運動=健康」は、場合によっては通用しない、体に優しい運動は、食とセットで考えよう。


以上、最後まで読んでいただきありがとうございました!

もし本記事が参考になったら、他の記事もぜひのぞいてみてください。

これからも皆さまの知的好奇心を満足させられる情報をお届けできるよう努力していきます。

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