
結論「ギャンブル経験者は、糖尿病と高血圧のリスクが約1.3倍――気軽な“遊び”が、あなたの体に深刻な負担をかけているかもしれません」
この記事はこんな方におすすめ
✅ギャンブルが習慣化している人
✅ストレスが体にどう影響するのか、科学的に知りたい人
✅ギャンブル依存や健康問題に関心のある医療・教育関係者
✅家族や友人がギャンブル好きで心配している人
時間のない方・結論だけサクッと知りたい方へ
🔴疑問: え?!ギャンブルって、メンタルやお金だけじゃなく“体”にも影響あるの?
🟡結果: ギャンブル経験者は高血圧リスクが1.35倍、糖尿病リスクが1.32倍に上昇
🟢解釈: 背景には、ストレスによるホルモン反応が生活習慣病を引き起こすメカニズムがあると考えられる
🔵対象: アメリカ・カリフォルニア州の住民21,671人を対象にした大規模調査

はじめに
皆さん、こんにちは!
最近、「違法オンラインカジノ」がニュースで話題になっていますよね。
スマホひとつでどこでも賭けられる時代になった今、ギャンブルはもはや特別なものではなく、私たちのすぐそばにある日常的な行動になりつつあります。
とはいえ、わたし自身はギャンブルとはまったく縁がありません。
というのも、我が家には昔から「ギャンブルは絶対ダメ!」という家訓があって、父も祖父もポーカーフェイスが苦手なタイプ。
つまり、代々ギャンブルに向いていない一族なんです(笑)。
でも、周囲にはギャンブル好きな人がたくさんいます。
大学時代の先輩は、スロット旅行のために仕事を休むほどの熱中ぶり。
中には「ちょっとだけ貸して」と言って、わたしが管理していた部費から10万円以上を借りたまま返してくれず、最終的に私が自腹で補填する羽目になったこともありました。
あのときの苦い経験は、いまだに忘れられません。
そんな個人的な背景もあって、今回取り上げる論文にはとても関心を持ちました。
掲載されていたのは、アメリカ・ミズーリ州の地域医学雑誌『ミズーリ・メディスン』。
世界的に有名な医学誌というわけではありませんが、2万人を超える大規模データを使ってギャンブルと高血圧・糖尿病の関係を分析した、非常に興味深い内容だったんです。
今回は、その最新研究をもとに、ギャンブルが健康に与える影響について、わかりやすく解説していきます。
きっと、あなたの身近な誰かにも関わる話になるかもしれません。

自己紹介
こんにちは! 某県の大規模病院で外科医として約20年の経験を持つ「医学論文ハンター・Dr.礼次郎」です。
海外の権威ある医学雑誌に掲載された論文を一編ずつ読み解いた、
生の「一次情報」をもとに、医学に詳しくない方にもわかりやすく解説しています。
日々、皆さんに信頼できる医療情報をお届けします!

今回読んだ論文
“How Does Gambling Correlate with Chronic Health Conditions?”
(ギャンブルは慢性疾患とどう関係しているのか?)
Mo Med. 2025 Mar-Apr;122(2):144-149.
PMID: 40291528
掲載雑誌:Missouri Medicine(ミズーリ医学雑誌)【アメリカ】 2025年3月
研究の目的
この研究の目的は、「ギャンブル行動が身体の健康、特に高血圧や糖尿病といった慢性疾患にどのように関係しているか」を明らかにすることです。
背景には、ギャンブルが生み出すストレスが心身に与える影響が知られており、心拍数の上昇やコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌増加が、長期的には生活習慣病のリスクを高める可能性があると考えられています。
また、従来の研究は2000年代初期に集中しており、近年の急速なオンラインギャンブルの普及や、社会状況の変化を十分に反映していませんでした。
そこで研究チームは、2023年版のカリフォルニア健康調査(CHIS)で初めて導入された「ギャンブルに関する質問」を活用し、最新の大規模データでこの関連性を検証することに挑んだのです。
ギャンブルがもたらす身体的健康リスクに科学的な光を当て、今後の予防や政策に役立てることを目指した研究です。

研究の対象者と背景
この研究では、アメリカ・カリフォルニア州に住む21,671人の成人を対象にデータが集められました。

調査は、州全体を代表するよう設計された「カリフォルニア健康調査(CHIS 2023)」によるもので、多様な人々の健康や生活習慣に関するデータが含まれています。
対象者の特徴は以下のとおりです:
・居住地:アメリカ・カリフォルニア州全域
・年齢:成人(18歳以上)
・調査人数:21,671人
・調査方法:無作為に選ばれた世帯から1人が電話またはオンラインで回答
【人種・民族ごとの割合(構成比)】
調査参加者全体に占める人種の内訳は以下のようになっています:
・白人:49.5%
・アジア系:15.5%
・ラテン系:15.4%
・アフリカ系アメリカ人:記載なし
・アメリカ先住民(American Indian/Alaska Native):記載なし
※アフリカ系・先住民の構成比は論文に記載がなかったため省略。
【人種・民族ごとのギャンブル経験率(過去12ヶ月以内)】
人種別にみた「ギャンブルをした人の割合」は以下の通りです:
・白人、アジア系、ラテン系など:おおむね22〜28%
・アフリカ系アメリカ人:35.7%
・アメリカ先住民(American Indian/Alaska Native):40.1%
※ギャンブルの競技・形式は問わず。
特にアフリカ系アメリカ人とアメリカ先住民において、他の人種よりも高いギャンブル経験率が報告されており、文化的・社会的背景が影響している可能性が示唆されています。
このように、対象は多様な背景を持つ人々であり、アメリカ社会における多文化性を反映した信頼性の高いデータとなっています。
もちろん日本と状況は異なりますが、ストレスや生活習慣の面で共通点も多く、私たちにとっても参考になる研究といえるでしょう。

研究の手法と分析の概要
この研究は、観察研究(横断調査)の形式で実施されました。
カリフォルニア健康調査(CHIS)は毎年行われており、今回は2023年版のデータが使われています。
この年の調査では初めて「ギャンブルに関する質問」が追加され、健康とギャンブルの関連性を分析するための新しい材料となりました。
調査は電話とオンラインを併用して実施され、無作為に選ばれた家庭の中から1人の成人が回答する仕組みです。
質問項目には以下のようなものが含まれていました:
・過去2ヶ月以内にギャンブルをしたか?
・医師から高血圧または糖尿病と診断されたことがあるか?
・喫煙・飲酒習慣の有無
・学歴(大卒以上かどうか)
・健康保険に加入しているか
この中で、慢性疾患として分析対象となったのは「高血圧」と「糖尿病」の2項目のみです。
いずれも、医師の診断を自己申告する形式で収集されました。
他の健康問題(うつ病や不安症など)についてのデータも一部存在しましたが、本研究では統計分析の対象外となっています。
研究者たちはこの情報をもとに、ロジスティック回帰分析という統計的手法を使って、「ギャンブルをすること」と「高血圧や糖尿病との関係性」を数値で検証しました。
この分析では、年齢や性別、喫煙・飲酒、学歴といった健康に影響を与える他の要素も同時に考慮し、それらの影響を取り除いた上でギャンブルの影響を評価しています。

【補足:ロジスティック回帰分析】
は、「ある要因が、病気のような“結果”にどれくらい関係しているか」を数値で示す統計手法です。
たとえば今回の研究では、「ギャンブルをしているかどうか」が、「高血圧や糖尿病といった病気にかかっているかどうか」と関係しているかを調べるために、この分析が使われました。
その結果を示すのが「オッズ比(OR)」という数値です。
このオッズ比が「1.35」となっていれば、それは「ギャンブルをした人は、していない人に比べて35%高い確率で高血圧や糖尿病になっていた」といった意味になります。
難しく考える必要はありません。“オッズ比”が1より大きければリスクが高まっている、1より小さければリスクが下がっていると理解すれば大丈夫です。
研究結果:ギャンブル経験者は「高血圧・糖尿病」のリスクが上がる!
今回の研究で明らかになったのは、ギャンブルをしている人ほど、健康リスクが高まるという驚きの事実です。
とくに注目されたのは、高血圧と糖尿病の発症リスクです。
結果は以下のとおり:
疾患名 | ギャンブル非経験者との比較 | 統計的な有意性 |
高血圧 | 1.35倍 高いリスク | p < 0.001 |
糖尿病 | 1.32倍 高いリスク | p < 0.001 |
これは、「ギャンブルをしたことがある人は、そうでない人よりも約1.3倍ほど高い確率で高血圧や糖尿病を抱えている」ことを意味します。
しかもこの結果は、年齢・性別・喫煙・飲酒・学歴といった影響を差し引いた上でも成立しています。
さらに、男女差はほとんどなく、ギャンブルの影響は男女ともに等しく表れていたこともわかりました。

【変化がなかった点=陰性所見】
性別とギャンブルとの間に「特別な相互作用」は見られず、「男性だから特に影響がある」などの傾向は確認されませんでした。
→ つまり、誰にでも同様に影響しうるリスクということになります。
ギャンブルと聞くと、メンタルやお金の問題ばかりが話題になりがちですが、この研究は身体の病気との関係も見逃せないという警鐘を鳴らしています。
「ちょっとストレス解消のつもりで始めたギャンブルが、実は体に深刻な負担をかけているかもしれない」――そんな可能性に、私たちはもっと敏感になる必要があるのかもしれません。
研究の結論
この研究は、ギャンブル経験が糖尿病と高血圧のリスクを有意に高めることを明らかにしました。
とくに注目すべきなのは、その原因のひとつとして“ストレス”による生理的な反応が関係していると考えられる点です。
ギャンブルは、勝ち負けの緊張感や金銭的な不安をともなうため、心拍数の上昇やコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌増加といった身体的なストレス反応を引き起こします。
これが長期にわたって繰り返されることで、血圧の上昇・血糖の異常・インスリン抵抗性・内臓脂肪の蓄積などが生じやすくなり、結果的に糖尿病や高血圧のリスクが高まると考えられます。
またこの研究は、ギャンブルという行動を「バイオ・サイコ・ソーシャルモデル」という視点で分析しています。これは、人間の健康は“身体的(バイオ)”“心理的(サイコ)”“社会的(ソーシャル)”な要素が互いに影響し合うという考え方で、近年の医療・心理学で広く用いられている理論です。

【補足:バイオ・サイコ・ソーシャルモデル】
このモデルは、「人間の健康や病気は、体の状態だけでなく、心の状態や社会的環境まで含めて考えるべき」という考え方です。
ギャンブルが健康に与える影響を理解するには、ストレスや感情、経済的環境、孤独感など、心や社会の側面も含めて考える必要があるという点で、非常に理にかなっています。
【筆者の考察】日本人のわれわれがこの論文から学び活かせる教訓や注意点
日本でも近年、「スマホでいつでも賭けられる」オンラインカジノやスポーツベッティングが若年層に広がりつつあります。
ギャンブルが「依存症になるかどうか」だけでなく、体そのものにどう影響するかという視点は、まだ社会全体で十分に共有されているとは言えません。
今回の研究が示したのは、ギャンブルが慢性的なストレス状態を生み出し、それが血圧や血糖値の異常を引き起こすことで、糖尿病や高血圧につながる可能性があるということです。
つまり、ギャンブルによる体へのダメージは、勝ち負けよりも「やっていること自体」がリスクとなり得るのです。
たとえば、仕事や人間関係のストレスをギャンブルで発散しているつもりでも、実はその行動が体にストレスを“蓄積”させ、糖尿病や高血圧のリスクをじわじわ高めているかもしれません。
この研究はアメリカのデータに基づいていますが、「ストレスに弱く、まじめな気質」が多いとされる日本人にとっても、きわめて重要な示唆を与えてくれます。
健康を守るためには、食事や運動だけでなく、「ストレス解消法の選び方」も含めた生活習慣全体を見直す必要があるのかもしれません。
まとめ
今回ご紹介した研究は、「ギャンブルと糖尿病・高血圧との関係性」という、あまり語られてこなかったテーマに光を当てた非常に意義深いものです。
✅ギャンブル経験者は、そうでない人に比べて高血圧と糖尿病のリスクが約1.3倍高い
✅その背景には、ギャンブルが引き起こすストレス反応が健康に悪影響を与える可能性がある
✅性別による影響差は見られず、誰にとっても共通のリスク要因と考えられる
✅健康を守るためには、「ストレスの付き合い方」や「行動習慣の見直し」も大切な視点に
ギャンブルを趣味として楽しむこと自体が悪いわけではありませんが、“どれだけの頻度で・どんな気持ちで”それを行っているかが、体に与える影響を大きく左右します。
この研究がそのことに気づくきっかけとなり、自分自身や周囲の健康を考える一助になればうれしく思います。
締めのひとこと
“ストレス解消”のつもりが、じつは体への負担になっていませんか。

以上、最後まで読んでいただきありがとうございました!
もし本記事が参考になったら、他の記事もぜひのぞいてみてください。
これからも皆さまの知的好奇心を満足させられる情報をお届けできるよう努力していきます。
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記事の内容は、筆者自身が論文を読み解き、わかりやすく要約・執筆しています。
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